2026年3月 良かった映像10選

ルール:公開一ヶ月以内の映像を積極的に取り上げますが、別に縛りというわけでもなく、その時崎村がアツいと思った映像を取り上げます。10選も目安です。批評ではなく、個人的なメモを目指しています。

Chloé Antoniotti - Mangata

Director: Zoé Cavaro(フランス)

なんでクロースアップから入らないんだろう?って初見は思いました。海にいると思ったら、それは印刷物でした、という展開の方が驚きがあるし、ある種、セオリーにあっているように感じられます。でも、見ていて、あ、それは違うんだとわかりました。映像的にやりたいことはそれではなくて、印刷物と実物の質感の違和感を新鮮に見せたい、というところなのでしょう。だから、ワイドショットで印刷物との関係を最初に明かしてしまう。

あるいは、どうせクロースアップで演奏シーンをたっぷり映すことにするんだから、最初はエスタブリッシュショットとしてワイドショットを選ぶというのもあるのかもしれません。映像全体のリズムをつくるための選択なのかも。

ドラムが入ってくるショットで、ショットを割らず、ぬるっとしたカメラワークでドラマーの存在を明かすのも、すごくおしゃれ。あと、背景のちらちらとした光がだいぶいい仕事をしてます。

なんか、全体的に、いやそこクロースアップからでしょ、とか、それでショット割らないでしょみたいなのが多くて、セオリーから外してみることで、独特の感覚を立ち上げている、良作だと思いました。

と思ったら、それはそれで前作でやってたみたい。

でもこれも、実際の山にいると思ったら、印刷物でした、みたいなある種の騙しをやろうとは思っていなくて、質感の違和感みたいなのを面白がっている感じはする。その意味で、この二つのMVは違いつつも(明らかに後者の方がセオリー的な演出)、同じ方向を向いていると言えると思います。

Miki - it stings a little though

Directed by Émilie Tronche(フランス)

脱力した線と、アニメーションのグルーブ感。たまらん。

iPadで描いたふにゃっとした線、可愛らしい線のアニメーションに見えて、その線が時間を得ることで、キャラクターも空間も、急に命を得るというか、ちょっと怖いくらい生々しく、動き出します。

この辺がフランスのアニメーションらしい、というか。アメリカのカートゥーンなどに影響を受けている感じはするのだけど、妙に生々しくなっちゃう。もちろん、アニメーションとして咀嚼し切って、魅力的に。

なんか、このアニメーションから勉強できること、みたいなのあんまりなくて。ただ、その腕から生まれる、素晴らしいアニメーションを見る快楽、みたいなのが存在しています。

日清焼そばU.F.O. CM「夜をブチ抜く大学生 篇」

監督:渡邉 直(日本)

大学生の感覚を敏感に捉えた、訴求性のあるクリエイティブだなと思いました。

深夜0:30、色々なことに対してムシャクシャしている大学生たち(落単とかガクチカとか……)を、UFO食って、夜を乗り切ろう! みたいなメッセージ。自分も心当たりあるし、まんまと訴求されました。

目を見張るべきなのは、その映像表現で、同じレイアウト・カメラワークの大学生たちの実写素材を、4コマごとくらいに(4コマっていうのも憎いよね……)切り替えて、ある種アニメーションみたいに見せている。アニメーションと実写の融合みたいなのに自分は興味があるのですが、ルックは完全に実写なのに、時間という軸でアニメーション的な手法を取り入れていて、綺麗な混ぜ方、融合の仕方だなと思いました。

まさに先月書いた「ハンバーグ理論」を体現しているような映像作品です。

あと、全編そのテンポ感というか、そのスタイルで走り切っているのも凄いですよね。最初から最後まで、ずーっと、4コマごとに画面が切り替わっていく。その統一感が、一本の映像としての勢いを作り出している感じがします。企画から映像表現まで、筋が通った良いクリエイティブです。

渡邉直監督は、プリビズを自ら制作するそうなのですが、そんな監督だからなせる技な気がします。

In Death We’ve Just Begun ft. Poppy and Son Lux (Official Music Video) | Marathon Launch Cinematic

Directors: Harmony Korine, Sam Goldwater(アメリカ)

ゲームで何度も死ぬというフラストレーションを、ゲームの中のキャラクターたちが持っているというところに、親近感を感じました。こういうゲームのトレーラー、特にバトルロイヤルゲーム系は、最後勝ち残っている高揚感を主題にトレーラーを組み立てることが多いと思うけれど、実際にプレイしているプレイヤーからしたら、死んでいる回数、うまくいかない時間の方が多いわけで、フラストレーションの中を生きている。それを理解し、組み込んでしまおう、というトレーラーになっています。

Marathonは、デザインのクオリティが高すぎる……! グラフィックデザインはもちろんのこと、キャラデザとかも、めちゃくちゃ攻めてるのに魅力的。崩しまくってるように見えるのに、表情はしっかりわかる、バランス感覚に目を見張ります。(デザイン盗用してたのは忘れないけどな。)

AAAタイトルゲームという、めちゃくちゃ大きいエンターテインメントでありながら、「繰り返す死」をテーマに組み込んでいるところとか、ヴィジュアル・デザインにこれでもかと力を入れているところとか、オルタナティブな感覚と両立させているところが、個人的にとても共鳴する。

Marathonの映画出たら観に行くのにな〜 ミエルゴ、監督とかで、映画化しないかな。

James Blake - Trying Times

Directed by Harrison Adair & Robbie Lawrence(イギリス)

最初、CGなんかなあ…… と思ってみていました。

ちょっと話はそれますが、個人的に完成画面が没入に足るものなら、どんな手法を使ってもいいと思っています。過程に価値を見出しすぎないというか。だから、この映像がCGを使っていようがいまいが、どちらでも良いんですが、映像制作者としてはどうしても気になってしまうところです。

ほんで観進めていたら、これ完全に実写ですね。まじかよ。しかも、それが、棒の上を回転していた皿が速度を落として落下してくる、それにジェイムス・ブレイクが反応することによって判明する、種明かしされる感じがして、面白いなと思いました。

オブジェクトのキャラクターのインタラクション、というか反応みたいなものを通して、画面の信頼性が担保される。しかも、それが種明かしされることによってカタルシスを生んでいる感じ、テクニカルですね〜〜 一本取られました。

シナモンと安田顕のゆるドキ☆クッキング 【番外編①】

アニメーション制作:J.C.STAFF 実写部分制作:TBSスパークル(日本)

サムネイルに誘われてみてみたら、癒し空間でした…… 休憩時間を切り取って、番外編としているの、とてもいい。キャラクターが生きている……

(野暮とは思いつつ…… 実写と2Dキャラクターが自然に融合していて、映像としての説得力を担保しています。しかも、普通グラデーションとかかけたくなるのに、そういった小細工がない。なのに、自然。なんで?? 実写が明るめにグレーディングされていて、実写がキャラに合わせに行っている工夫は見えます。でも、こうまで自然なのは驚きです。作画の解像度がめちゃくちゃ高そうなので、そこも影響しているかもしれません。)

PAELLAS「Fire」

監督:細金卓矢(日本)

今月頭にVideo Lan(映像作家Biviさん主催のみんなでMVを見て語らおうというイベント)に行ってきたのですが、そこで取り上げられたMVです。

自分の好みな映像の典型として、映像の中で世界や制約を自分で決め切って、その中で豊かに、いろんな表情で展開を作っていっている映像、というのがあるのですが、それのドンピシャでした。

チカチカと音に合わせて光る電球からスタートし、四方を囲む白い壁というルールが明示されます。そのあとは、照明とオブジェクトによるシークエンスが続きます。ここの、オブジェクトの選択と配置の妙が、無機質さと生活感の衝突、そして音楽との共感覚的な楽しさを生み出していて、好きです……

2番からは、照明に色がついて、ルールの拡張が行われます。三原色の重なり合いが、また白いオブジェクトたちの違う表情を引き出しています。その後、色付きの光方面でルールは広がっていき、色付きの蛍光灯、レーザー光線などが混ざってきます。

そして、最後に電球が戻ってくるのですが、最後、電球まで真っ白に塗られて終わります。やられたな〜〜

もちろん細金さんを知ってはいるのですが、この作品は初めてみました。Video Lan、色々と楽しかったんですが、この映像を知れただけでも、行った甲斐がありました。

MEG - PRECIOUS

監督:野田凪?(日本)

友人に勧められてみたMVなんですが、観ている間に思わず吹き出して笑ってしまいました。猫がかわいすぎる。

でも、映像的にもかなりテクニカルなMVですよ、これ。観ていて、机のカットから始めたらダメなのかな? と一瞬思ったんですが、最初のカットの必然性は、まず黒い背景と女性との純粋な関係を表明するところにあります。ここで、見手に自然にルールを理解させているんですね。

だからこそ、次の机のカットに移れる。だからそこで黒子による遊びができるんです。

そして、机に奥があった、という展開。ここも、観ていてびっくりしました。ここに、ある種のカタルシスが存在しているように思います。これは、さっきのルールの話の続きで、黒背景とフィックスによる簡素なMVだと思ってみていたところ(そういうルールだと思ってみていたところ)、想定を超えてカメラが動く、ルールを超える瞬間です。こんなにミニマルな構成なのに、世界がふわっと広がるような感覚になりました。二番から世界観が広がるMVめっちゃ好きなんですよ……

あとは、猫を見て笑いましょう。

Telsche

Directed by Sophie Colfer and Ala Nunu(イギリス・香港/ポルトガル)

ここまでいくと、画面構成に対する、ある種のフェチズムを感じますね。画面を支配するひろい平面の中に、目を凝らさないとわからないほどに細い線で、小さく動くものがいます。

最近、コントラストというか、画面内のレンジって大事だなあ、ということを考えていたので、ここまで強烈にコントラストがあって、解像度のレンジを生かす画面構成を見せられて、喰らってしまいました。ここまでやるもんなのか、と。

その結果、本当に広大な空間に、ぽつんと佇んでいる、呆然とするような感覚が生まれています。

あと、多分やろうとしていることからいって当然なのですが、キャラクターまでグラフィカルに処理せず、グラフィカルでありつつも生々しい線やディテール、動きを採用しているのが、良いなと思いました。無機質な巨大空間とのコントラストがそこでも効いています。

アメリと雨の物語

監督:マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハン(フランス)

なんだか不思議な映画だったなあ、雨みたいな映画だったなあ、と思う。

初めから良い意味で、映画を見ているような感じがしなかった。とつとつと時間が流れていく。 自らを神だと信じる2歳半の少女の目には、自分たちが当たり前だと思っているようなものが、全て目新しくて、全能感の喜びに溢れている。その喜びをお裾分けしてもらったような気分になった。

この映画は、子供を舐めんなよ、みたいな映画でもある。 ついつい、大人は子供はこんなものだ、幼稚なものだとたかを括って、子供に接する。しかし、子供は我々が思っている以上に、感じているし、考えている。一人の人間として、誠実に接するから、アメリとニシオさんは仲良くなったんだと思った。

ナショナリティについて。映画内で、ベルギーの家族に生まれ、日本で育ったアメリが、自分は日本人だと思っていたのに、実際はベルギー人であると知る瞬間がある。 そして、映画の外側でも、フランスのアニメーション映画が日本を描く、という、ナショナリティの揺らぎがある。この、ナショナリティのミックスが、自分にはとても魅力的に感じた。

そして、戦争について。ナショナリティの話の続きだけど、ある国とある国の人間同士が殺し合いをする戦争というもの、そしてその影は、アメリたちにも横たわってくる。簡単には断つことはできない、戦争がもたらす分断。それを、アメリは理解しきれないが、この映画は見事にそれを描いている。

このアニメーション映画を支える絵の美しさは、言うまでもない。個人的に驚いたのは、海のシーン。海をあんな淡い緑色で描くなんて…… 息を呑んだ。

時間は流れて、いろんなことが起こる。目を凝らすと、そこには喜びが溢れている、同時に、苦しみも。それを受け止めると、その中で生きていくと、そしてそれを忘れないと、決める(そして、アメリは神から人間になる)。そんな映画。